« 面白東京本1「東京風物名物誌」 | トップページ | 面白東京本3「アルバム東京文学散歩」 »

2011/05/15

東京面白本2「東京案内記」

 面白東京本1で紹介した「東京風物名物誌」のはしがきに、具体的な本の名前は書かれていないが、似たような東京本がすでにあることをうかがわせる記述があった。

Photo そこで取り上げるのが「東京案内記」(木村毅、黄土社書店、初版昭和26年10月25日)。この本は、東京風物名物誌に大きさも厚さもそっくりな装丁となっているが、はたしてその内容はどうだろうか。

 東京案内記の序によれば、この本はドイツで発行されていた旅行案内ベデカ(Baedeker)を手本として編集したとある。ベデカは、寺田寅彦随筆集に収録されている「案内者」(大正十一年一月)に登場することから分かるように、戦前からよく知られていた旅行案内書。東京案内記は、1)概説、2)観光案内、3)生活と娯楽、4)文化施設、5)旅館と交通の五編から構成されている。

 概説は、年中行事からはじまり歴史、地勢、気候、人口、住宅、交通さらに犯罪地図や火事など社会情報を記述している。興味深いのは犯罪地図。繁華街で犯罪が多いことは想像通りだが、住宅地区のある区について”強窃盗の本場の観がある”と述べるなど都市の影の部分にも言及している。

 観光案内は、皇居から隅田川、公園・庭園、天然記念物、重要文化財、神社仏閣など東京の名所旧跡の紹介。

 生活と娯楽は、盛り場への招待、銀座、新橋、日本橋と京橋、人形町、丸の内、有楽町、神田、新宿、渋谷、池袋、上野、浅草、錦糸町を案内している。錦糸町の江東楽天地(現在の東京楽天地)は、東宝の小林一三により開発された劇場・映画館が建ち並ぶ娯楽街だが。東京案内記によれば、”演劇・映画共催の江東劇場、洋画封切の本所映画の二大劇場、それに小屋は両者より狭いが邦画洋画の特選ものをやる錦糸町映劇の三者が隣接鼎立し、その中間にダンススタジオと国営競馬場外馬券売り場がこの一帯の人気に一層拍車をかけている。間もなく映画とオドリの瀟洒な新劇場「リッツ」と吉本興業の吉本江東劇場が建つ”、この本が書かれた当時は”錦糸町は興業成績も上々で新宿・浅草をしのぐ勢いがあった”と書かれている。

 このように項目をみると、「東京案内記」と「東京風物名物誌」は内容も似ている。当然、これら二冊を比較したくなるが、地図の細かさや有名店の誕生話となると「東京風物名物誌」だが、娯楽風俗の話題になると「東京案内記」も捨てがたい。

 たとえば「東京案内記」は、もはや東京遺産になりつつある純喫茶についてこのように記している。戦前のカフェー全盛の頃だが”社交喫茶・新興喫茶などというものが出来た。これはコーヒーとかケーキとか食べさせる店だが、注文すればビールでも酒でも出す。カフェーほど濃厚ではなかったが、美人にサービスさせもした。割合に安値だったのと、甘党も行けたのとで非常に繁昌し、女給十数名内外の小店が至るところに出来、その数はカフェーをしのぐほどになった。あまりにこの種の喫茶店が多くなったので、酒をおかない純粋の喫茶店は、この種のものと区別するために、わざわざ「純喫茶」と断るようになった”と純喫茶の名前誕生の経緯を書いている。

 さらに「東京案内記」は、ストリップ劇場を料金を含めて紹介したり、カフェー、キャバレーから料亭、都内各地の人気芸妓、さらに寄席とその入場料を紹介するなど、戦後娯楽を語る貴重な資料としていまも役立つ。なにしろ銀座にできた東京温泉についても”色とりどりのサービスで料金百円から”と紹介しているほどである。

|

« 面白東京本1「東京風物名物誌」 | トップページ | 面白東京本3「アルバム東京文学散歩」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 面白東京本1「東京風物名物誌」 | トップページ | 面白東京本3「アルバム東京文学散歩」 »