古書との出会い

2019/04/07

Y3・SS

 写真文学散歩は、それぞれの写真の撮影データを記載している。たとえば続写真文学散歩の太宰治「斜陽」のページは伊豆半島からみた富士山の写真にオリンパスレフ・F5.6・1/200・Y3・SSとある。オリンパスレフはカメラ名、F5.6・1/200は絞りとシャッタースピードだが、Y3・SSとは何だろうか?

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 Y3は、レンズに付けるフィルターの種類を示している。父親がモノクロフィルムで写真を撮るとき、レンズに黄色いフィルターを付けていたことをかすかに覚えている。そのフィルターはY1,Y2,Y3と数字が大きくなるほど色が濃くなり、モノクロ写真のコントラストを強調する効果がある。SSはフィルムの感度を示している。かつてフジフィルムから販売されていたモノクロフィルムは、ネオパンS、SS、SSSの3種類あり、その感度はISO50,100,200であった。つまりY3・SSは、レンズに濃い黄色のフィルターを付けてISO100のフィルムで撮影したことを表しているのだ。

 デジカメは、ISO感度はカメラ本体で大きく可変できるし、コントラストも写真ソフトで調整できるのでフィルターを意識する機会は少なくなった。フィルム撮影用のフィルターは、今はまだメーカーのカタログに載っているが将来はどうなるのだろうか。

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2019/03/30

写真文学散歩

 「文学散歩」本は、作品とその舞台となった地の解説に加えて、取材した当時の町の様子を記録している。そのため文学の話題に限らず、古い町を知る資料として役立つ。そこに写真が入っていれば、さらにその資料価値が高まる。

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 「写真文学散歩」(大竹新助、現代教養文庫、1957年)は、タイトルにあるように文学作品のゆかりの地を写真とともに紹介している。各文学作品を見開き1ページとして半分で作品紹介、残り半分を写真としている。著者である大竹新助は写真家でもあり、写真構図がよく撮影データも記載している。この本は、もともと図書新聞に連載されたものを一冊にまとめたものだ。

  志賀直哉は、序文で”この本は後になる程、その価値をまし、皆から喜ばれ、大切にされる本だと思ふ。露伴の五重塔の如き、大竹君が写した後で焼け失せた”と述べている。まさしくその通りで、幸田露伴の小説「五重塔」のページではモデルとなった谷中天王寺の五重塔の写真を収録。この五重塔は1957年(所和32年)に焼失したが、これ以外にも、いまや失われた昭和30年前後の日本の風景を数多く記録している。

 上に載せた写真は夏目漱石「三四郎」のページ。坂道に沿って並ぶ家々はみな木造、はるか遠く木々の上にわずかに五重塔の最上部が見える。約60年前、千駄木にある団子坂に立った人々はこのような景色を見たのだ。「写真文学散歩」には、このような写真がたっぷり詰まっている。文学ファンだけでなく昭和の町に興味のある人におススメだ。なお続編も発行されており、そちらの序文は伊藤整によるものだ。

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2018/12/21

びんぼう自慢

 「びんぼう自慢」(古今亭志ん生、毎日新聞社、昭和39年)は、落語家志ん生が自らの人生を語った本。ちくま文庫からも発行されているし古本屋でもよく見かけるが、なぜか今まで読んだことがなかった。

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 先日、それを手にする機会があった。自らの生い立ちから始まる話は、まるで落語のマクラのように軽妙で一気にひきこまれてしまう。いかにも落語家が目の前で語っているような文体なのだ。もしかして、これは聞き書きではと思いながら巻末の”楽屋帖・あとがきにかえて”(小島貞二)を読んだら、やはりそうであった。

 ところで、この本を手にした理由は本の帯にある文言があったからだ。帯の最後に”志ん生師吹き込みのフォノシート添付”とあり、裏表紙を開くと小さな赤いフォノシート(いわゆるソノシート)が入った紙袋が貼り付けてある。今なら音源の付録はCD-ROMだが、それがレコードしかもソノシートなのがいかにも昭和の本らしい。

 ソノシートに収録されているのは「蛙の遊び」となっている。これはどのような話だろうか。レコードプレーヤーを片付けてしまったので、残念ながら今は聴くことができない。落語に詳しいN先輩に会ったら、そのあらましを聞いてみようと思っている。

 最後にソノシートについて補足すると、これは薄いフィルムのようなレコードで雑誌などの付録によく利用された。音楽や朗読などを収録したものが多かったが、パソコンが登場した初期にはデジタルデータを収めたものがフロッピーロムとして雑誌に挟まれていたこともあった。なおソノシートは朝日ソノラマの商品名なので、他社はフォノシートなど独自の名を付けた。

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2016/01/17

「音楽」術を読む

 晶文社日常術シリーズは、作者名「XXX」術のタイトルをもつシリーズ本。ブックデザインは平野甲賀、彼自身も平野甲賀「装丁」術なる本をだしている。今回読むのは日常術シリーズの6冊目、斉藤晴彦「音楽」術(1986年、晶文社)だ。

 斉藤晴彦は、黒テントで活躍した俳優だが、クラシック音楽に日本語歌詞をつけた歌唱で広く知られるようになった。本人はこれを「あて歌」としている。自らが作ったパロディ風の歌詞は、思わず笑ってしまう内容でありながらまじめに歌いきってしまう、その歌い方と歌詞のギャップが面白くCMにも採用された。

 この本は、斉藤晴彦がクラッシク音楽を聴きはじめた中学生から、大学生、演劇人となるまでの音楽体験をつづるとともに、そこで出会った音楽関係者との交流を語っている。もちろん「あて歌」が生まれたきっかけ、代表作を掲載している。そのなかには、あのモーツアルト「トルコ行進曲」もある。

 ところで、この本に本棚の写真が掲載されている。そのコメントに”よく読むのはエッセイ・・・風呂の中で、のんびりと田中小実昌や殿山泰司や井上ひさしのものを読む。音楽関係では作曲家の柴田南雄さんのものが好き。”とあるが。写真には、フルトヴェングラーの手記、デビットボウイ詩集、チャーリ-パーカーの伝説など幅広い音楽系の本といっしょに、エノケンと呼ばれた男、マルクス兄弟のおかしな世界、さらに志ん生のいる風景、志ん生一代など落語関係の本も写っている。これは、音楽だけでなくお笑いも好きだったことを想像させる本棚だ。

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2008/11/03

何羨録(かせんろく)を見る

 地下鉄都営新宿線の東大島駅と船堀駅は、荒川を挟んで地上駅となっています。電車が大島から東大島駅にさしかかる直前、「中川船番所資料館」の看板をかかげた茶色の建物が川下(旧中川)方向に見えます。

7dsc02422 その資料館で「何羨録:かせんろく」の展示が行われているので訪れてみました。

  「何羨録」と言ってもなんのことか分からない人がいるかもしれませんが、じつは私自身も、資料館のホームページにあった”江戸の武士(サムライ)と釣り文化~釣り指南書”という展示案内だけに惹かれて、内容もよく知らず資料館を訪れました。

  展示資料によれば、「何羨録」は、江戸時代の旗本であった津軽采女が書いた、日本最古の釣り指南書と言われている本です。展示資料の受け売りですが、遊びとしての釣は江戸時代になって武士から始まったそうです。釣竿も、弓矢製作の竹の加工技術を応用したもので、武士にとって釣は武道に近い遊びだったようです。実際、津軽采女は、4000石の旗本で、本所三つ目通り(あの吉良邸の近く)に屋敷をもっていました。江戸時代後期になると、釣は庶民に広まり釣入門書が出されますが、その内容もこの「何羨録」が元になっているそうですから、釣本の古典と言えます。

 ところで「中川船番所資料館」で、なぜ釣指南書の展示なのでしょうか。

 これも今回はじめて知ったのですが、じつは以前釣具博物館にあった資料が「中川船番所資料館」へ引き継がれ、和竿のコレクションや釣関係の資料が常時展示されています。和竿作りのための道具なども工程順に展示され、本テグスの原料である天蚕虫の標本など、じつに興味深いものがあります。そうなんです、その昔のテグスは天蚕虫(蛾の幼虫)から作っていたなど、またっく釣をしない私でも楽しめてしまいます。

 それにしても「何羨録」とは、”何も羨ましいことなどない”との意味らしいのですが、武士でありながらその後の庶民の釣文化に影響を与えた書を残したとは、これはとても羨ましい生き方かも・・・。

 なお江戸の武士(サムライ)と釣り文化~釣り指南書『何羨録(かせんろく)』の世界は、10月29日から 11月24日まで。アクセスと詳細は、「中川船番所資料館」のホームページをご参照。

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2008/09/01

トラバント:自動車ポスターにみる1960年代

 最後に番外編として、1960年代はもう一つのドイツであった東ドイツの車のポスターを紹介しよう。

8trabant1968a このポスターは1968年のトラバント。トラバントは、2ストローク2気筒600cc空冷エンジンをもつ東ドイツで製造されていた小型車。1960年のはじめから、ベルリンの壁が壊された1989年頃まで製造されていた。

 このクルマには有名な噂があった。

 ”ボディがボール紙で出来ている”と言われていたが、実際はFRPボディ。ただしFRPの品質がよくなく、芯材などがボール紙と言われてしまったようだ。性能的にはみるべきものがないクルマだが、そのポスターは真面目で、これはこれでよいように思う。

 じつはこのトラバントは、今一番注目されているドイツ車と言える。ドイツの玩具メーカーが、この車の復刻版を生産しようという企画があるそうだ。

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2008/08/29

メルセデスベンツ:自動車ポスターにみる1960年代

 フランスのシトロエンのつぎはドイツを代表する大自動車メーカー・メルセデスベンツの広告ポスターをみてみよう。

8benz1960a この1960年のポスターは、乗用車だけでなくトラック・バスを製造する総合自動車メーカーであるメルセデスベンツを主張しているように見える。同じ頃のBMWのポスターは、どこかドイツの田舎にある小メーカーという雰囲気があるが、それとは全く対照的なのが気興味深い。

 ところで、このポスターで注目したいのが色使い!

 ブルーの背景にクルマのシルエットを並べているが、フランス・シトロエンの柔らかい色合いとも、イタリア・フィアットの強烈な色とも違う、どこかくすんだ色が使われているのがいかにもドイツ風。かつてコンピュータでグラフを作成するソフトウエア開発に参加したことがあるが、そのときドイツチームが作成したカラーマップが、まさしくこのポスターのように一つとして純色がない深く沈んだ色だったことを思い出す。

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2008/08/28

シトロエン:自動車ポスターにみる1960年代

 イタリアのフィアットにつづいて、フランス・シトロエンのポスターをみてみよう。

8citroen19650_2cv これは1965年のシトロエン2CVのポスター。この車はもともと農民のための車として1948年に発表されたが、その簡素にして必要十分な装備と経済性のため、やがてフランスを代表する車となった。

 1960年代には、シンプルなオシャレなクルマというイメージもできあがり、いまやただの農民車ではないと訴えたかったのか、このように郊外にある大きな屋敷前にたたずむポスターも作られていた。

 大きくドアを開き、薄くて平らなドアと、それと正反対にいかにもユッタリしたシートを強調したような構図は、前回のイタリアフィアットのギュッと詰まった感じと違う、ユルサと伸びやかさがある。これがフランスの造形なのだろう。

 ところで、このシトロエン2CVは一時期日本でもよく見かけたが、もちろん乗っているのは農民ではなく、オシャレなカタカナ職業の人が多かった。そしてこのクルマを日本で有名にした最大のものは、映画ルパン三世に登場したことだろう。

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2008/08/27

フィアット:自動車ポスターにみる1960年代

 昨日のアルファにつづいて、フィアット(FIAT)のポスターをみてみよう。

8fiat1969a FIAT 500Lは、日本の軽自動車にほぼ等しいサイズの小型車。このような小型車の塗装色で思いつくのは、赤や黄や白という明るい色や青などだろう。

 ところが、このフィアット1969年のポスターでは、黒を採用している。クロームに輝くモールに縁取りされた黒い車体、屋根のキャンバストップを開け放ち見える室内は真っ赤という組み合わせ。よくみるとシートの縁のパイピングも黒になっている。

 黒塗りというと、これは大型車によく見かける色だが、その場合は、ちょっとイヤミな印象を受けるときがある。ところが同じ黒でも、このように小さな車だと、どこか粋という感じがする。

 イタリア車というとすべて赤というイメージがあるが、このように外側は渋い黒にして、内側に赤というのもイタリア人の感性にあるのだろう。

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2008/08/26

アルファロメオ:自動車ポスターにみる1960年代

 Automobile Revueは、1947年から現在までスイスで発行されている自動車年鑑、世界中の自動車の写真と簡単なスペックを紹介している。当然、世界中の自動車メーカーが広告を出しているが、メーカーによる広告デザインの違い、また同じメーカーであっても年代ともに変化する様子が興味深い。

Alfa1960 1950年代のアルファロメオの広告は、モノクロのイラストに自動車スペックを列記したものだったが、1960年にはいると、それまでと全く異なり、カラーイラストになった。その最初にして最高のポスターだと思うのが、ここにある1960年のもの。企業名だけで、あえて車種名もスペックも記載していない、シンプルな構成と色使いがじつに美しい。特にバックをグリーンにしたのは、なかなかの配色と思うがどうだろうか。

 ところが、この後のアルファロメオのポスターは写真を多用するようになり、ごく普通のものになってしまった。それはちょうど自動車産業が国際化がすすみ、国による個性がうすれ始めた時期とかさなるようだ。

 なおAutomobile Revueの1969年版を、京島のLOVE GARDENのミニ古本市で展示している、1960年代のデザインに興味にある方はご覧下さい。

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