古書の世界
神田駿河台にある明治大学は、本の街神保町に接しており、本について学ぶには絶好の場所にある。なにしろ数分も歩けば、三省堂、書泉、東京堂などの大型新刊書店があり、さらに数え切れないほど古書店(神田古書店名簿に載っているだけでも161軒)に囲まれている。その明治大学の公開講座リストに「古書の世界」があり、今回で通算第6回目となる秋の講座に参加したのでその話をしよう。
講座は大学内の見晴らしのよい明るい教室で行われ、講師は、古本関係の本や新刊書の書評を数多く書いている方が担当している。ゲスト陣も、古書店ガイドのライター、ベテランの古書店主でかつ古書雑誌編集人、女性古書店主などと、実際の古書業界に深く携わっている方々である。さすがに講師は、古本道場師範と呼ばれるだけあって、古書に対する知識は幅広く深く、購入する古書の数も半端でなく年間2000冊を超える、そのパワーに圧倒される。集まった受講生は、学生風の方からリタイヤ後の人生を楽しんでいるような方まで年齢が幅広く、女性も多く和やかな雰囲気である。実は、講座が進み分かったのだが、古書界への女性進出はめざましい。
さて講義内容だが、古書店主をゲストに迎えての実戦的な話もあるが、全体を通じて印象に残ったのは、古書との出会いをいかに楽しむかである。1冊100円の均一価格で店頭に並ぶ古本も、見方を変えると思わぬ魅力が浮かび上がってくる。著者の名前は知らなくても、装丁者名に好きな画家やデザイナーの若き日の名を見つけたりすると、それだけでその本を手元に置きたくなるし。お祖父さんやお祖母さんが読んでいた頃の雑誌も、現代ではとても信じられないような記事や付録があって楽しませてくれる。例えば、巻末に付いていた芸能人の住所録などは、現代では、まずありえないものになったが、昔よくあった「弟子になるために地方から上京して師匠の家の前で座り込んだ」などの芸能人苦労話などは、この住所録なしでは成立しない話だったろう。
講義最終日は、受講生が買ってきた古書の発表会であったが、事前の説明不足のため本を持ってこられなかった人がいたので、急遽、通りの反対側にある古書会館で開かれている古書市に行き、購入することになった。こんな予定外のことがすぐ出来るのも、神田駿河台ならではある。予算は1000円、時間は30分に制限された買い物は、子供の頃テレビで見た「夢路いとし・喜味こいしのがっちり買いましょう」を思い出し、楽しい実習となった。教室に戻り参加者全員がそれぞれの本を発表したのだが、これが十人十色である。有名人のサイン入り本にはじまり、古い写真帖、純文学本、随筆、歴史、絵本、グラフ雑誌、実用書、美術書、なぜか若い女性が仏像ガイドの本を買ってきたりして、楽しいエンディングとなった。
教室からニコライ堂方向を見る
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