古書との出会い:東京の三十年(田山花袋)
本は本を呼ぶのでしょうか、先日、森本哲郎さんの”懐かしい「東京」を歩く”を読み返し、そのまえがきで紹介されていた田山花袋の「東京の三十年」に興味を持ったばかりですが、その本と古書市で出会いました。カバーが無くて大分変色しているためか、200円で格安本棚に並んでいたのは、創元社選書の一つとして昭和22年に再刊された本です。まさしく森本さんが、”気持ちをこの上なくかき立ててくれた書物”と言われたものと同じものです。
巻末にある正宗白鳥のあとがきに(正宗白鳥が書いたのもすごいが)、「東京の三十年」は大正六年に発行されたとあるように、この本で描かれた東京は明治前半から大正半ばです。十歳で館林から上京して京橋にあった本屋の小僧になり、本を背負ってお高輪や駒場の得意さんを回った話からはじまり、深川高橋にいた伯母のこと、その後の文壇の様子などが綴られます。古い本なので旧字体の活字が多いのですが、文章は口語体で分かりやすく、今も全く違和感がないのは、さすが自然主義の確立者といわれた田山花袋です。
田山花袋の「東京の三十年」は、震災以前の東京の様子を知るには格好の本です。念のため坂崎重盛さんの「東京本遊覧記」をみたら、”東京の景観史を考えるときにははずせない必読の一冊である”とありました。さすが坂崎さんです。
「東京の三十年」田山花袋は岩波文庫で入手可能です、講談社文庫版もありましたが現在は在庫無しのようです。
| 固定リンク
コメント