古書との出会い:新東京百景(山口瞳)
戦後東京の大きな変化点として、多くの人が東京オリンピックをあげていますが、バブル景気による東京の街並みの変化は、オリンピックと同じ、いやそれ以上だったようです。
今回はバブル景気真っ只中の昭和60年代の東京を描いた「新東京百景:山口瞳、新潮社、昭和63年」を紹介しましょう。
新東京百景は、山口瞳さんと臥煙さんのニックネームをもつ担当編集者がコンビを組み、”変わりゆく東京を自分の目で見て、絵でもってそれを残したい”をきっかけに、東京各地を描く連載としてスタートしました。新宿超高層ビルから始まる話は、最初の頃は、小説家の写生旅行記のように、その絵を描くためにどれだけ苦労したかなど絵筆の話が中心でした。
ところが都内巡りが進むにつれて、話は、消えた古い東京への嘆きから、目まぐるしく変わる東京の町への驚きを通り越し、新しい東京への憤りとなっていきます。「麻布十番・六本木」では、ディスコの服装チエックに怒り、「竹芝桟橋と帝国ホテル」では”いま東京が面白い・・・なんだか、幼児が砂場で遊んでいるような趣きがある”と急激に変わる東京の姿に驚き、さらに”東京なんて、・・・メチャクチャなんである”と憤っている。ホテルのバカ高い料理やボーイの接客態度に怒り、ラウンジでキスする客に怒り、銀座の高級ホテルの豪華さにあきれるのである。そのスルドイ指摘がイヤミにならないのは、山口さんならではでしょう。
新東京百景は、「小説家のお絵かき道中記」をよそおっていますが、その実体は「バブルに踊る東京紀行記」です。バブル期を知る人は、思わず”そうだ、そうだった!”とうなづき、”わずか20年前の東京が既に懐かしい町になっている”ことに思いをはせることでしょう。
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