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2006/11/18

東京物語の謎(1)

 映画の楽しみ方はさまざまだが、自分自身の記憶とどこか重なる場所が写ると、思わずそのシーンに惹きつけられることがある。たとえば銀座4丁目の時計台下にある交差点などは、数多くの東京を舞台にした映画に登場するが、そこを行き交う車や人は時代とともに異なり、都電などが写るとその懐かしさに見入ってしまう。

 尾道からはじまる「東京物語」が東京に舞台をうつし最初に登場するのが、煙突、駅、そしてその駅付近にある長男の医院の看板。この東京の下町の外れらしい風景の撮影場所は堀切駅とされており、川本三郎氏もそのように書いているし、このために堀切駅を訪れる人もいる。実際、わたしも堀切駅に行ったことをこのブログで以前紹介した。でもどうして堀切駅なんだろうか、どうやってそれが分かったのだろうか?長さにすれば30秒にも満たないこの駅のシーンを、文献とDVDを調べてみた。

 まず最初に調べたのは、「監督小津安二郎」(蓮實重彦、ちくま学芸文庫)。蓮實重彦は、東大のフランス文学教授でのちに東京大学の総長になったが、映画に関する著作も数多くある。「監督小津安二郎」にはカメラマンをつとめた厚田雄春氏とのインタビュー、小津監督お気に入りの女優であった井上雪子氏インタビューなども収められている。さらに厚田雄春氏の「東京物語、秋日和」の撮影記録を収録している。

Tdsc00800 厚田撮影記録は、昭和28年に行われた東京物語のロケハンと撮影について、場所、天気や日付、各シーンの出演者名とともに書かれており、いつどこでどのシーンが撮影されたかが分かる。

 東京物語の撮影記録は昭和28年6月11日からはじまり、6月16日は松坂屋、松屋、高島屋、三越屋上などのデパートのロケハン、20日は北千住、駅付近、牛田駅、アケボノ町、東武堀切駅、荒川放水路土手、墨田町、京成荒川駅四つ木橋(土手)、平井町、平井駅など。その後も尾道、大阪、ふたたび東京に戻り7月9日には東武線堀切駅、荒川区柳原町(注:これは足立区柳原の間違いと思うが)、千住大橋、浅草をロケハンで訪れている。撮影開始は7月23日予定だったが、雨天のため東京ロケが中止になり、25日のシーン96が最初の撮影となったようだ。

 シーン番号が分かれば、この厚田撮影記録をたどることでその撮影場所が特定できそうである。

 それでは煙突からはじまるシーンの番号はいくつだろうか?

 次回は、このシーン番号の話しをしよう。

東京物語の謎(1)
東京物語の謎(2)
東京物語の謎(3)

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コメント

シーン番号。検証作業おもしろそうですね。最近ではデジタル化して、ポンポンと照合できそうですが、手書きのノートとかで記録していた時代、重みがあります。
デジカメだと、自動的に記録される時間と位置情報を結びつける例のGPS。便利すぎて、ちょっと付き合いきれない感じもしてしまいます。

投稿: △イチおじさん | 2006/11/21 00:26

便利さを得たことで失ってしまった楽しみもあるかなと。もちろん仕事となれば、効率のよいものを選びますが、あえて不便を選ぶのが趣味の世界でしょう。

投稿: じんた堂 | 2006/11/21 23:07

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