商店街残照(4)
踏み切りに接して古い建物がある。長いあいだ閉められているが、かつてここに玉子屋さんとボタン屋さんがあった。
玉子屋さんは間口一間の小さな食料品店だったが、いつも産みたての玉子をモミ殻の上に積み上げて売っていたので、踏み切りの玉子屋さんと呼ばれていた。ボタン屋さんは、洋裁と手芸用品の大きなお店だったが、ボタンの見本を取り付けた箱を壁際に積み上げてあったのでボタン屋さんと呼ばれていた。玉子屋さんは消えてしまったが、ボタン屋さんは線路の反対側でいまも営業しているそうだ。
両方の店とも、正面の看板はまだキレイだが、長い間シャッターが閉まったままのお店のトタン屋根はすっかりサビにおおわれている。もと手芸品店だけあって、建物裏側から伸びてきた木の枝は、複雑な造形をみせながら屋根をおおい、まるで編物のようにTVアンテナに絡みついている。一番線路側の部分は、いま不動産屋さんが入っているのでブルートタンで多少補修されているが、線路に面した部分はだいぶ色あせてきた。トタンを重ね合わせたような壁は、それぞれのトタン板が微妙なグラデーションでサビており、まるでサビのパッチワークのようになっている。
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