海月@深川
深川で用事があり大横川べりを歩く。
大横川の流れは、満潮の前後で逆転する。満潮に向かう上げ潮のときは、隅田川から大横川へ向かう方向に流れ、ひとたび満潮時になるとは流れは完全に止まり、川というより大きな堀のようになる。やがて満潮をすぎ干潮となると、大横川から隅田川方向へ流れはじめる。どちらの流れも非常にゆっくりで、水に浮かぶゴミや木の葉の動きではじめて気付くことが多い。
川辺に着いたときは、すでに満潮をすぎていた。木々の影が映る水面を、白く透明な丸いものがゆらゆらただよっている、海月(クラゲ)だろう。潮にのって上ってきたものが、再び海に戻るのか、波もなく静かな水面を流れていく。
クラゲは、水母または海月と漢字で書く。語源は分からないが、こうして水辺から見ると、まるで水に映るゆらめく月のようで、海月とはじつにいい文字を当てたと納得してしまう。
ところで当て字にはすぐに思いつかないものが多いが、なかには簡単ゆえ、かえって分かり難い使い方もある。たとえば、夏目漱石の「我輩は猫である」の出だしの部分に”この間おさんの三間を偸(ぬす)んでこの返報をしてやってから、やっと胸の痞(つかえ)が下りた。”とある。この三間は、「秋刀魚」すなわち「さんま」と脚注にある。なんだと言われるかもしれないが、その昔、秋刀魚を「さんま」と読むことをようやく憶えたのに、「三間」を「さんけん」でなく「さんま」と読ませるのは、簡単なだけに肩すかしをくらったようでかえって出てこない。
こういう言葉の遊びのような文字の使い方は、ちょっと楽しくマネしたくなるが、考えてみれば現代のKY語はさらにその上をいっているかもしれない。
写真は、大横川にかかる巴橋付近から水面を撮ったもの。下方にある暗い影は川沿いに植えてあるサクラの枝の影、海月(クラゲ)の大きさは10~15cm程度。
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