春樹とSWING!
イスラエル最高の文学賞といわれるエルサレム賞を受賞し、その記念講演でパレスチナ自治区ガザへの攻撃に「私は卵の側に立つ」とのメッセージを述べた村上春樹は、ジャズについてもたくさん文章を書いている。
「Portrait in Jazz ポートレイト・イン・ジャズ」(和田誠・村上春樹、新潮社、1997年)は、和田誠が描いた26人のジャズミュージシャンのイラストに、村上春樹が文章をつけた本である。
ミュージシャン26人の人選は和田誠によるものだが、村上春樹が、あとがきに”とくに感心したのは、和田さんのこの26人のミュージシャンの選び方で、ほんとうにジャズが好きじゃないとこういう人選はできないだろうとつくづく思う・・・”と書いているように、その人選は絶妙。
デュークエリントンやビリーホリディが収録されているのは順当だろうが、キャブキャロウェイが入っている。
キャブキャロウェイの名は、この本で初めて知ったのだが、その歌声と身振りは映画ブルースブラザーズでおなじみのものだ。映画で”ミニー・ザ・ムーチャ”を歌い踊っていた、あの怪優というかカッコイイおじさんである。Wikipediaによれば、キャブキャロウェイは、デュークエリントと並ぶような存在でジャズ史に残る人物だったらしい。こういう人物を入れてあるのが、この本の楽しいところだ。
ところで村上春樹は、ジャズミュージシャンの話に加えて、若き日のジャズとの触れあいを、この本の随所で語っている。
たとえば、ビックス・バイダーベックではその文章を”大学生のとき、水道橋にあった<SWING>というジャズ喫茶でアルバイトをしていた”と始め、チャールス・ミンガスでは”大学二年のとき、新宿の歌舞伎町にある・・・その店の近くに<Pithecanthropus Erectus>(直立猿人)という名前の小さなジャズ・バーがあって”などと、学生時代の思い出を語っている。
この本は、和田誠のジャズ絵本として楽しめるとともに、村上春樹のジャズエッセイ本としても楽しめる。これは一冊で二度美味しい本である。
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