崎川橋に立てば
夏休みになると、木場にある東京都現代美術館は大賑わい、周辺の道路も渋滞ができるほど。
毎年この時期に開催されるスタジオジブリ展を目当てに人が集まってくるからだ。
ところで現代美術館だけを見て帰るのは惜しい気がする。もし時間があれば、少し周辺を歩くと思いがけない昭和遺産と出会える。
たとえば、現代美術館が建つ木場公園は、いまは大きな緑地公園だが、かつては丸太がたくさん浮かんでいた掘割の地であった。また運河が縦横に走り数多くの橋が架かる地でもあった。運河の一部は、埋められ道路や公園になってしまったが、いまも水をたたえる運河もあり橋も残されている。これらの橋をじっくり見ると意外なアートの発見がある。
崎川橋(さきかわはし)は、木場公園の中を東西に流れる仙台堀川に架かっている。
構造は、トラス構造という鋼材を三角形に組んだもので、昭和4年9月完成。ちょうど関東大震災後の復興期に架橋された、昭和初期の橋である。
トラス構造の橋は、遠くからみるとどれも同じように見える。しかし、いざ橋の上に立ち、その細部デザインをみるとそれぞれ違うことに気づく。
たとえば崎川橋は、橋入り口の柱上に置かれている照明器具と、橋の柱に設置された照明器具がともに小さな小屋のようにデザインされている。この構造では光の開口部が小さく、照明としてはどうかと思うが、あえてこのデザインを取り入れているところが面白い。この近くにある亀久橋にはステンドグラスの装飾があるように、昭和初期の橋は、細部デザインへのこだわりがあり、それを見つけるのも橋巡りの楽しみの一つである。
追記:8月18日
図書館で「東京の橋」(石川悌二)で崎川橋の項を調べたら、「深川の散歩」(永井荷風)のなかに崎川橋が登場していることの記述があった。家にもどり「荷風随筆集(上)」(岩波文庫)に収められている深川の散歩を開いたら。
ページ208に、”冬木弁天の前を通り過ぎて、広漠たる福砂通りを歩いていくと、やがて真直に仙台堀に沿うて、大横川の岸に出る。仙台堀と大横川の二流が交差するあたりには・・・・崎川橋という新しいセメント造りの橋を渡った”とある。(福砂通りは現在の葛西橋通り)
セメント造りという表現が気になるが(橋床が木造でなくセメントという意味だろうか)、場所はまさしく崎川橋や大栄橋があった地点。文末に甲戌十一月記とあり、これは昭和9年11月となり、現在の崎川橋が完成して5年経た頃で年代も整合している。これなら”この崎川橋に立ったとき、ここは荷風も渡った”と言ってよいだろう。
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