東京のひがし本
リコシェさんから、「東京のひがし本」としておススメの本の名をいくつか上げてほしいとの話がきた。ここ数年、東京に関する本をいくつか読んできたので、何とかなるかなと軽い気持ちで引き受けたが、いざ選ぶとなるとこれがなかなか難しい。
まずは「東京のひがし」とはどこだろうか。東京の地図を広げて適当な場所で南北に直線を引き、その左右を東西として、ここからこっちが東ですと決められればよいが、そう簡単ではない。たとえば皇居(旧江戸城)を通るように南北の線を引いたとすると、中央区の日本橋や銀座も東京の東となるが、この地域に生活する人からは、“ここは東京の真ん中であって東ではない”との話が聞こえてきそうだ。数年前、人形町に住んでいたお年寄(当時90歳)の話を聞いたが、その方が東京として認める地域は、日本橋を中心にして西は赤坂・青山あたりまで、東は隅田川までというじつに狭い範囲。その外側にある新宿も川向こうにある錦糸町・亀戸も全て田舎あつかいだった。
これはこのお年寄りだけの大げさな話かと思ったが、東京がまだ東京市で15区しかなかった昭和初期の地図を見ると、なるほどそうかとなる。当時の地図をみると、東京の区部は、西は四谷区までで、その先は内藤新宿町・淀橋町となる。東は本所区・深川区までで、その先に亀戸町・砂村、北の日暮里もまだ日暮里村だったのだ。東京は時代とともに膨張してきた、平成の時代にかつての区分が当てはまらないのは当然だが、古い東京を舞台にした作品を読むときは、時代によって異なる東京の姿を考慮しておきたい。
このようなことを考えながら、東京のひがしとして隅田川(大川)の東側、いわゆる墨東・江東さらに葛飾などを語る本を選んでみた。文庫・新書などで出版され入手が容易であることを考慮したが、すでに絶版になっているものもある。街歩き系の本が多いが、これは選者の好みということでお許しを願いたい。
合計25冊リストアップした候補の中から、最初の10冊は以下のとおりである。
1.大東京繁昌記・下町編:平凡社ライブラリー
2.墨東綺譚:玉の井(永井荷風、岩波文庫・新潮文庫・角川文庫)
3.原色の街:鳩の街(吉行淳之助、新潮文庫)
4.流れる:柳橋(幸田文、新潮社文庫)
5.ふるさと隅田川:向島(幸田文、ちくま文庫)
6.洲崎パラダイス:洲崎(芝木好子、集英社文庫)
7.イーストサイド・ワルツ:深川・京島(小林信彦、新潮文庫)
8.私のなかの東京:玉の井(野口富士男、岩波文庫)
9.歴史をあるく、文学をゆく:向島(半藤一利、文春文庫)
10.江東歳時記:江東・葛飾(石田波郷、講談社文庫)
さて、あなたの「東京のひがし本」は、どのようなものだろうか・・・。
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