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2012/06/17

「芝居名所一幕見」戸板康二

 はっきりした理由もないのに食べることを避けていたものを、たまたま口にしたらその美味しさに驚き、いままで食べなかったことを後悔するときがある。いわゆる食わず嫌いだろうか・・・。

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 「芝居名所一幕見・舞台の上の東京」(戸板康二、白水社、1953年・昭和28年)は、その題名から演劇関係の本だろうと思い、古書店の棚でみかけても手にすることはなかった。たまたま怪談話の舞台となった場所を確認することがあり、この本のことを思いつき手にして開いたらその内容にビックリした。劇場で演じられた舞台だけでなく、その舞台となる地をおとずれ、当時のようすを写真と文章で記録している。もともと歌舞伎ファンにむけてかかれた本のようだが、発行から約60年をすぎたいまは、歌舞伎だけでなくちょっと昔の東京を語る貴重な本になっている。

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 たとえば江戸歌舞伎の「与話情浮名横櫛」(よわなさけうきなのよこぐし)、いわゆる「切られ與三郎」のお富が住んでいた「源治店」は、人形町にあった玄冶店付近である。その玄冶店の1953年(昭和28年)の姿が、この本に収録されている。

 玄冶店は、大通りにパチンコ屋の看板がみえ、メルシーの看板をかかげた喫茶店などが並び、子供達が遊ぶ路地だった。いまはビル街となり歩道ぞいの小さな案内碑でそれと知る横丁は、かつては板塀がならび塀越しに木々の枝が伸びる路地だったことがしっかり記録されているのだ。

 このように「芝居名所一幕見」は演劇本だが、懐かしの昭和東京風景を記録した本としても楽しめる一冊である。

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コメント

春日八郎の『お富さん』が昭和29年(1954年)8月と云うことですから、その前年の出版ですね。「粋な黒塀」らしきモノは見えますが、「見越の松」でなく柳でしょうか。子供まで歌詞の意味も分からず唄ってましたね。

投稿: iGa | 2012/06/18 23:41

私も子供頃は全く歌詞の意味が分かりませんでした。”くろべえー”と”まつ”は人の名前だと思っていました。

投稿: じんた堂 | 2012/06/19 08:32

この本も楽しそうですね。早速探します!!

投稿: ROBOT | 2012/06/26 19:41

ROBOTさん、コメントありがとうございます。
なかなか面白い本ですので、もし古本屋でみかけたらチエックしてください。

投稿: じんた堂 | 2012/06/27 20:13

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