八月の音
今年は梅雨が明けてもセミの鳴き声が聞こえなかったが、8月になった途端にセミの合唱が窓から飛び込んできた。朝のうちは甲高い鳴き声のニイニイゼミ、昼になると力強く少し低い鳴き声をもつアブラゼミやミンミンゼミ、これでもかという勢いでジージー・ミンミン鳴いている。
ちょっと気になるのは、そのセミの鳴き声のなかに今まで聞いたことのないものが時々混じることだ。午前中、シャアシャアという鳴き声が遠くに聞こえる。どうもクマゼミらしい。クマゼミは南に生息している種類だが、それが徐々に北上しているそうで、いよいよ我が家の地域にもきたらしい。
ところで「セミの合唱」とまるで音楽のように表現したが、これが全ての人に通用するとは限らない。
以前、セミの鳴き声があふれる頃、工場見学に来た外国人から”あのうるさいノイズは何か?”と質問されたことがある。じつは、彼が住む地域(ヨーロッパ北部)にはセミがいなくて、鳴き声も日本に来るまで聞いたことがなかった。まさか、こんな大きな音を出す虫がいるとは思いつかず、てっきり工場内の機械が発生しているノイズと思ったそうだ。それまではセミの鳴き声は誰もが知る夏の風物詩と思っていたが、世界にはセミだけでなく四季のない地域があり、それが全ての人に通じるものでないことを知った。
それでもセミの鳴き声を聞くと本格的な夏がやってきたことを実感するのは、いまもかわらない。空に広がる白い雲、木陰をぬける風、わずかな自然の変化が心をゆらす。この文章を書いているいまも、今年初めてツクツクボウシの鳴き声が聞こえる。まだまだ暑い日がつづきそうだが、秋は確実に近づいている。
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