富山房のおもいで
神保町ブックフェスティバルの会場となった「すずらん通り」では、三慶美術が取りこわされ隣のパチンコ屋が入っていたビルもこわされ空き地となり、東京堂書店がカフェを併設してリニューアル、斜め前のふくろう店は女性向けになるなど、その風景が大きく変わろうとしている。
ところで東京堂書店を背にして反対側をみるとドラッグストアが目に入るが、かつてここに新刊書店があったことを憶えているだろうか。富山房の書店である。富山房は創業明治19年(1886)という古い出版社、この富山房ビルの1階が書店となっていた。明るい店内に本がゆったりと展示されていて、私も何度か利用したことがあるが、よい雰囲気だった。
富山房書店はなくなったが、富山房の本はいまも発行されている。その中に富山房百科文庫というシリーズがある。文庫と名乗っているが版形は新書版で、「茶話」薄田泣童、「緑雨警語」斉藤緑雨などしぶい本がずらり並ぶが、グルメエッセイ本もある。
「あまカラ」は、関西で発行されていた食に関するエッセイを毎回20篇ほど掲載した小雑誌。昭和26年~43年、200号まで発行された。富山房百科文庫「あまカラ抄1.2.3」は、高田宏が雑誌「あまカラ」に掲載されたエッセイを選び作者別に、1.作家篇、2.学者・評論家篇、3.諸家篇の3巻にわけて収録している。たとえば1.作家篇は、幸田文・阿部艶子・武田泰淳・・・子母澤寛・佐藤春夫・大仏次郎・田宮虎彦・司馬遼太郎などの作家のエッセイがずらっと並んでいる。これらの作家の食エッセイが一冊で読めるのだから、これはお得だ。
富山房百科文庫「あまカラ抄1.2.3」は、神保町では岩波BCや東京堂書店で在庫している。
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