「舞台と史蹟」林次忠
以前紹介した「芝居名所一幕見」は、もともと産経新聞都内版で昭和28年6月から8月に連載したものを単行本にしたものだが。じつは同じような企画の本が、昭和5年に朝日新聞社から発行されていた。
「舞台と史蹟」(朝日新聞、林次忠、昭和5年)は、アサヒグラフに連載された訪れた記事をまとめたもの。その構成は、舞台写真とその舞台のもととなった地の現在の写真と文章となっており、「芝居名所一幕見」とまったく同じ。時代としてはこちらが先なので、芝居名所一幕見は、これを参考にしたのかもしれない。「舞台と史蹟」は、収録されている写真(朝日新聞だけあって航空写真もあり)が多く、とりあげた芝居も東京だけでなく関西圏を舞台にしたものも含んでいる。歌舞伎の幕を連想させる色使いの表紙などの装丁は、恩地孝四郎によるもので内容もデザインも充実している。
前回と同じ玄冶店のページをひらくと、玄冶店横町にあった白いのれんと氷の文字を描いた小さな布を下げた和風の店の写真を載せている。その左側は、ドア横上に「たばこ」の看板があることから、これも店のようだ。「芝居名所一幕見」と比較しながら「舞台と史蹟」のページをめくると、わずか23年しか離れていないのに、まるで違う町のように感じる。戦争をはさんでの町の変化は、建物だけでなくそこに暮らす人々の表情にも表れている。
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