もう一つの写真文庫
写真文庫といえば「岩波写真文庫」。日本の写真ジャーナリズムを立ち上げた名取洋之助が編集にたずさわり、写真だけでなく文章もデザインも一流陣が参加している。ワイド版の復刻につづいて、しばらく前にオリジナル判型の復刻版が赤瀬川源平、川本三郎、森まゆみ、山田洋次などのセレクションとして発売されている。
(左:復刻版の岩波写真文庫、右:角川写真文庫)
岩波写真文庫は、1950年~1958年まで通算286巻発行された。たぶん新しい文庫として成功したのだろう。当然、他の出版社も同じような企画の本を発行、それが「角川写真文庫」だ。手元にあるのは最近入手した「東京文学散歩・下町編」(1955年、昭和30年発行)、その判型は岩波写真文庫とまったく同じ、各ページに写真を並べそれに短い文章がつけたレイアウトも同じようにみえる。
角川写真文庫は資料がまったく見つからず、いつ誕生し何巻発行されたか分からない。ためしに日本の古本屋で検索すると「明治の作家」1954年(昭和29年)角川写真文庫1がみつかる。東京文学散歩の表紙見返しの先頭にも「明治の作家」の写真が載っているから、たぶんこれが第1巻だろう。もっとも新しいのは1957年(昭和32年)宮崎県・新日本風物誌のようだが、これが最終巻かはっきりしない。
外形も題名もそっくりな岩波写真文庫と角川写真文庫だが、その中身の印象は大きく異なる。
岩波写真文庫は、写真が主役であり文章はそれをどう読み解くために加えられたようにみえる。一方、角川写真文庫は、文章が主役で写真は補足説明として添えられているようにみえる。この二つは同じ写真文庫と名乗りながらも、その目指した方向が違っていたのかもしれない。
出版物としての成功は、当時も今も岩波写真文庫が大きく他を引きはなしていることは明らかだろう。なにしろ岩波写真文庫は、全286巻、さらに復刻版まで登場しているほどだ。しかし昭和30年代を記録する資料としては、角川写真文庫は負けていない。むしろ何気なく挿入された町の写真が、当時の日常風景の貴重な記録になっている。これは見つけたら要チエックの本だ。
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