装幀の秘密
先週末、神楽坂ブック倶楽部による「新潮社の装幀」展を見学。展示されている本を観ていたら、その中身についてはうろ覚えなのに、箱やカバーデザインから”あーこの本はあそこで買った”など、その本を入手した時の記憶がよみがえった。
この展示で初めて知ることがいくつかあった。いまは少なくなったが、かつて文芸書の標準形は「函入り布クロス装」だった。函入ではないが向田邦子の直木賞受賞作「思い出トランプ」も布クロス装、これはカバーを描いた風間完の仕事であり、記憶に残る名装幀だそうだ。
家の本棚にある「思い出トランプ」のカバーを外してみたら、赤い布クロスが目に飛び込んできた。背の部分のタイトルと著者名は金文字となっておりいまも美しく輝いている。もし函を作ればそのまま「函入り布クロス装」に変身できそうな仕上げがされているのだ。購入から長い年月を経たこの本のカバーを外したのは今回が初めて、装幀展でこのことを知らなければ見ることがなかった姿だ。
次に展示会にもあった安岡章太郎「私の墨東奇譚」。これは小型の函入り本だが、その表紙は手にするとざらっとして不思議な手触りがする。じつはこの表紙は、布に木村荘八の絵を印刷したもので、箱の題字は安岡章太郎、装幀は新潮社装幀室によるものだそうだ。これも展示会に行かなければ知ることができなかったことだ。
それにしても、完成すれば隠れてしまう部分をここまできれいに仕上げたり、説明されなければ気づかないような加工など、装幀に込められた技というか思いはじつに奥が深い。なお神楽坂ブック倶楽部による「新潮社の装幀」展は3月12日終了。
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