読み鉄・第二阿房列車
内田百閒「阿房列車」を読んでいると、ときどき見慣れない言葉が出てくる。以前は読み飛ばしていたが、今回は辞書で調べるようにしている。たとえば、いま読んでいる「第二阿房列車」の雷九州阿房列車のなかで、私が辞書を開いたのは、人物月旦(じんぶつげったん)、品隲(ひんしつ)、水珀(すいはく)、久闊(きゅうかつ)を叙する、などの言葉だ。
人物月旦は文章の前後関係から、人物評らしいと想像できる。調べてみると中国故事からきた言葉で、後漢のころ毎月一日に人物について批評したことによるそうだ。品隲、水珀、久闊は広辞苑に載っているが、品隲は品定めすること、水珀は水神、久闊を叙するは久しぶりに会って話をすることだ。いずれも難しい意味をもつものではないが、どこか品格を感じさせる言葉選びだ。
内田百閒の文章は、言葉選びとともに言葉遊びも巧みだ。たとえば人名では、百閒に同行するヒマラヤ山系や旅立つ百閒を毎回駅で見送る夢袋さん、さらに旅先で出会った人を垂逸さん、何樫さんなどと記している。山系や夢袋が仮名であることはすぐに分かるが、垂逸、何樫とは珍しい名前だと思ってしまいそうだ。落ち着いて読めば、これは誰それ、何某という言葉を言い換えたものと分かるが、すんなり文章にはまっているのでこういう人名があるのかと百閒の言葉遊びについ乗せられそうになる。
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