写真文学散歩
「文学散歩」本は、作品とその舞台となった地の解説に加えて、取材した当時の町の様子を記録している。そのため文学の話題に限らず、古い町を知る資料として役立つ。そこに写真が入っていれば、さらにその資料価値が高まる。
「写真文学散歩」(大竹新助、現代教養文庫、1957年)は、タイトルにあるように文学作品のゆかりの地を写真とともに紹介している。各文学作品を見開き1ページとして半分で作品紹介、残り半分を写真としている。著者である大竹新助は写真家でもあり、写真構図がよく撮影データも記載している。この本は、もともと図書新聞に連載されたものを一冊にまとめたものだ。
志賀直哉は、序文で”この本は後になる程、その価値をまし、皆から喜ばれ、大切にされる本だと思ふ。露伴の五重塔の如き、大竹君が写した後で焼け失せた”と述べている。まさしくその通りで、幸田露伴の小説「五重塔」のページではモデルとなった谷中天王寺の五重塔の写真を収録。この五重塔は1957年(所和32年)に焼失したが、これ以外にも、いまや失われた昭和30年前後の日本の風景を数多く記録している。
上に載せた写真は夏目漱石「三四郎」のページ。坂道に沿って並ぶ家々はみな木造、はるか遠く木々の上にわずかに五重塔の最上部が見える。約60年前、千駄木にある団子坂に立った人々はこのような景色を見たのだ。「写真文学散歩」には、このような写真がたっぷり詰まっている。文学ファンだけでなく昭和の町に興味のある人におススメだ。なお続編も発行されており、そちらの序文は伊藤整によるものだ。
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