ドナルド・キーンの音盤風刺花伝
2月に96歳で亡くなられたドナルド・キーンは、日本文学および日本文化に関して多くの著作を生み出したが、彼はクラッシク音楽愛好家でもあり著作もある。「ドナルド・キーンの音盤風刺花伝」(1977年、音楽之友社)は、彼の最初の音楽エッセイ集、今も音楽之友社から発行されているレコード芸術の連載をまとめたもの。
16歳のとき叔父から贈られた蓄音機で家にあったレコードを聴き、カルーソー(イタリアのテノール歌手)の歌声に魅せられオペラ好きとなり、その後メトロポリタン歌劇場でオペラの舞台上演を見るようになる。大学を卒業し海軍に入隊しハワイに配属され、その後ニューヨークに戻りさらにイギリスに渡りそこでコベント・ガーデン歌劇場へ足を運ぶようになる。そこでいまや伝説の歌手となったマリア・カラスの「ノルマ」や「トスカ」を観てその力強い歌声と存在感に強い印象を受ける。その後も様々なオペラ公演を観つづけ、多くのレコードを集め、それぞれの公演と歌手の印象を語っている。その歯に衣着せぬを語り口は、ちょっと辛辣だが素直でもある。
音盤風刺花伝は、ドナルド・キーンの長い音楽鑑賞遍歴の中から音楽会や出演していた歌手、集めたレコード、さらに音楽を取り巻く話を語っている。なにしろ10代のころからクラッシク音楽に親しんでいるだけあって、いまでは神格化されたり、その逆に名を見ることが少なくなった音楽家の全盛期の話は、じつに興味深く面白く、これをきっかけにしてYoutubeでマリア・カラスのノルマを探してしまったほどだ。
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