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2020/02/15

坪内祐三の「東京」を読む

 文芸評論家として多くの著作がある坪内祐三は、国内海外の文学だけでなく古書・音楽・歴史など多岐に及ぶ分野で活躍した。「東京」(坪内祐三、太田出版、2008年)は、坪内が暮らし歩き遊んだ東京の街を語る。

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 じつはこの本は、「クイック・ジャパン」2003年11月から2007年6月までの連載に新たに書下ろしを加えたもの、学生時代、雑誌編集者、作家になってから、坪内の1970年代から2000年代、いわゆるちょっと昔の東京の姿が収録されている。このちょっと昔は、歴史として研究するには新しすぎて対象にならず、まだ現役で知っている人がいるのに意外とあいまいなものが多い。特に街の小さな変化などは記録されることが少なく忘れ去れてしまう。

 例えば神保町の章で、坪内は”私が通いはじめた頃の「キッチン南海」は街の普通の洋食屋だった。行列なんて出来ていなかった。それはとんかつの「いもや」もそうだった。(今では「さぼうる」にまで行列が出来ているから驚きだ)”と語っている。まさしくこの通り、かつては空席がないときはすぐに別の店へ向かい、店前に並ぶことはしなかったのだ。もし待つとしたら、店内に空席待ち用のイスが用意されている場合だけだった。これは、興味のない人にはどうでもよいことだが、その時代を知る人なら共感する話だろう。

 それにしても、坪内祐三の新たな文章を読めなくなるのはじつに残念だ。

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