澁澤龍彦「イタリアの夢魔」を読む
外出自粛のために突然始まった我が家の読書週間は、最初はとりあえず目についた本を選んでいたが、三冊目あたりからある方向性が見えはじめた。名前は知っていても、じっくり読んだことがない作家の本である。四冊目に選んだ「イタリアの夢魔」(澁澤龍彦、ランティア叢書)もそのような一冊だ。
イタリアの夢魔「ペトラとフローラ」は、副題に「南イタリア紀行」とあるように旅行記。その旅は、イタリア地図でいえば長靴のかかとの部分にあるプーリア地方にあるカステル・デル・モンテへ向かうところから始まる。
澁澤が別名「風の塔」と書いているカステル・デル・モンテは、丘の上にある13世紀に建てられた城。尖塔をもつヨーロッパの城のイメージと違い八角形の大きな塊のような建築物だ。イスラム文化の影響を受けているそうだが、建てたのは神聖ローマ帝国皇帝(シチリア王、ローマ王でもあった)フリードリヒ2世。この皇帝はノルマン人(北方系ゲルマン人)の血を引くといわれ、教皇から破門されながらも国を繁栄に導き、美術・科学を奨励し、占星術師を抱え、錬金術に熱中し、世界最初の大学をナポリに創設したり、珍獣を集めた動物園を造ったり、フランス語、イタリア語、ギリシャ語に加えてアラビア語を話した。
このフリードリヒ2世に興味をもち調べてみたら、十字軍としてエルサレムへ向かい、10年間の期限付きだったが戦わずして交渉によりエルサレム返還を実現した人物だった。ただし破門中の身であったため、その功績は教皇側の人々からはあまり評価されなかったようだ。
それにしても旅行記なら読みやすいだろうと選んだ本だが、やはり澁澤龍彦の本は一筋縄ではいかない。まだ前半しか読んでいないが、これはイタリアの旅行ガイドとしてさらりと読むこともできるが、個々の小さな話題をじっくり拾いはじめるといつのまにかヨーロッパ中世史の世界へ迷い込んでしまう、まさしく魔力のようなものが潜んでいる本だ。
なおカステル・デル・モンテは今は世界遺産になっておりイタリア政府観光局公式サイトでその姿を見ることができる。
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