ウィンナ・コーヒーが飲みたくなったなあ
「古本とジャズ」(植草甚一、ランティエ叢書)は、植草の数多くあるエッセイから古本やジャズに関する文章を選びそれらをコンパクトに収録している。植草を読みたくなったとき、ちょっと開くのに便利な一冊だ。
その中にある「ウィナーコーヒーが飲みたくなったなあ」の話は、雑誌エスクアィアに掲載されていたジョセフ・ウェクスベルグの「食い物談義」の紹介からはじまる。
ジョセフの”いまではもうウィーンでもウィンナ・コーヒーを飲めなくなった”との話に応じて、植草は”むかしは東京でも、この「ウィンナ・コーヒー」が流行ったもんだがね、いまでは知らない人がおおいだろう”と自身の思い出にふれる。再びジョセフの記事に戻りウィーンのコーヒー店の歴史と現状を紹介となり、最後に”なんとなくウィンナ・コーヒーがまたのみたくなっちゃたなあ”と、いつもながらのJJ節の展開となる。
ウィンナ・コーヒーについて古い旅行ガイドブック(ブルーガイド)の中にこんな話があった。それは「有名なウィーンのコーヒーだが、ひと昔前に”ウィンナ・コーヒーを下さい”と注文したら、”ここのはすべてウィンナ・コーヒーです”といわれ思案にくれた」につづいて、ウィーンのコーヒーの種類を紹介している。そのなかで「アインシュペンナー(Einspanner)、コーヒーに多量のホイップクリームを入れたもので、このコーヒーだけはグラスで飲む。これあたりが日本でいうウィンナ・コーヒー」とある。
また「アメリカにアメリカン・コーヒーがないようにウィーンにウィンナ・コーヒーはない」との話を聞いたことがあるが、ガイドブックの話を参考にすれば、これは「アメリカでアメリカン・コーヒーという言葉が通じないのと同様にウィーンではウィンナ・コーヒーという言葉は通じない」ではないだろうか。似たようなものだが、ちょっと違うような。それにしても、ジョセフが語るウィンナ・コーヒーはどのようなものだろうか、また昔し東京で流行ったウィンナ・コーヒーはどのようなものだろうか、植草の話をもっと聞きたかった。
ところで日本で初めてウィンナ・コーヒーを出したのは、神保町にある喫茶店ラドリオと言われている。その創業は1949年、渋い色合いのレンガと彫刻のある柱がある店は、とても落ち着いた空間。私も神保町で用事があったとき利用したが、いつかもう一度訪れたい喫茶店だ。もちろんそのときはウィンナ・コーヒーを注文したい。
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