金色青春譜(獅子文六)を読む
金色青春譜(獅子文六、ちくま文庫、2020年12月)は、サブタイトルに「獅子文六初期小説集」とあるように、1934年(昭和9年)から1936年(昭和11年)に雑誌新青年に連載された3篇の小説を収録している。
本のタイトルにもなっている「金色青春譜」に続いて「浮世酒場」「楽天公子」の3篇は、帯にあるようにいずれもユーモアを含むラブコメディのような作品。著者本人が巻末の「出世作のころ」で明かしているが、金色青春譜はそのタイトルから想像するように金色夜叉のパロディ。しかし明治の名作金色夜叉の名を知っていても実際に読んだことがないので、そうですかとしか言えないが、金持ち未亡人と若き学生高利貸という登場人物の組み合わせは湿っぽさがなく明るい。
つづく浮世酒場と楽天公子も似たような話で、浮世酒場は式亭三馬の「浮世風呂」を参考にした作品、楽天公子はパリで見た「えんび服の男」からヒントを得たと明かしている。これは誰のことだろうかとか何の話だろうとなるところもあるが、巻末の語句注記が大いに助けてくれる。いわゆる当時の世相や風俗の流行を随所に織り込んでいるのだ。
それにしても三つの作品、その話の展開はどれも映画になりそう、「金色青春譜」は実現はしなかったが映画化の話があったと「出世作のころ」に述べられている。さらに獅子文六ならではの明るく軽快な文体が、初期から出来上がっていたことが分かる作品でもある。
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