読み鉄

2019/02/10

日本の機関車

 以前、「世界の機関車」(本島三良、秋田書店、1969年)について紹介したが、先日、「日本の機関車」(本島三良、秋田書店、1971年)を入手した。

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 これは「世界の機関車」と同じ「写真で見るシリーズ」の中の1冊で、作者も同じで小学生でも読めるように全ての漢字にフリガナをつけているのも共通している。子供向けながら内容は本格的で難しい鉄道用語もそのまま使用しているが、日本の蒸気機関車・ディーゼル機関車・電気機関車を数多くの写真で紹介しているので見るだけでも楽しめる。

 ところで鉄道マニアからはいまさらと言われそうだが、E10という蒸気機関車をこの本で初めて知った。日本で作られたタンク式蒸気機関車として最大、蒸気機関車として最後の新製(旧型を改造したものでなく新設計で製造)、わずか5両だけ製造されたなど。本の中では”不運な機関車”と述べられている。

 調べてみると、E10という型番からも想像できるように動輪は有名なD51より多く5軸あり、さらにトンネル走行時の煙を避けるため後ろ向き走行を前提にして運転席を通常の逆位置にするなどの工夫が盛り込まれていた。しかしその工夫ゆえ一般路線へ転用したとき運転が難しくなり短命で終わったそうだ。この珍しい蒸気機関車は,、1947年製造の2号機が青梅鉄道公園に保存されている。

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2017/07/02

読み鉄・路線図

 阿房列車は、その列車経路を細かく記載しているので、内田百閒になったつもりでその旅を机上でたどれそうだが、現在では路線も駅名も変更されているので一工夫必要だ。

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 そんなとき役に立つのが鉄道路線図。最新のものは時刻表に掲載されているが、ここは当時の鉄道員になったつもりで古い路線図を開いてみよう。赤い表紙に職員用最新鉄道路線図とあるものは、路線図に加えて料金表さらに駅名早見表がついていている。これ開くだけで気分は鉄道員だ。

 ちょっと残念なのは、私の手元にあるのは昭和41年4月発行第30版なので、奥羽本線阿房列車にある「横手と東北本線の黒沢尻をつなぐ横黒線(おうこくせん)」をさがすと、横黒線の名はあるものの黒沢尻駅の名がない。じつは黒沢尻駅は、昭和29年に北上駅に改称されていたのだ。さらに横黒線は、この路線図が発行された年の10月に北上線に改称されている。こんなことに気づくのも阿房列車があってこそだ。

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2017/06/25

読み鉄・阿房列車を支えた人々

 内田百閒の従者のように旅を共にするヒマラヤ山系氏とは、どのような人だろうか。阿房列車では、どこか捉えどころのないぼーっとしたように描かれているが、百閒とはかみ合わないようでいていいコンビぶりを示している。また百閒の旅立ちをホームで毎回見送る見送亭夢袋氏、百閒が旅行鞄を借りる交趾君とは誰だろうか。

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 これらの疑問に答える本がある。「阿房列車物語」(平山三郎)は、内田百閒からヒマラヤ山系と呼ばれた人物の回想記、阿房列車の旅とそこに登場する人を紹介している。たとえば見送亭夢袋は、国鉄職員であり小説家でもあった中村武志(目白サンペイ)、彼は平山氏の上司でもある。すなわちヒマラヤ山系氏も国鉄職員だ。文中にたびたび登場する垂逸さん、何樫さんは、誰それ、何某をもじったもの。甘木君は、「某」の上下を切り離して甘木としたもので、やはり某氏という意味。さらに百閒が旅行のたびに借用する赤い鞄の持ち主である交趾君とは、法政大学の多田教授であると明らかにしている。
 
 それにしても百閒の阿房列車の旅は、いまで言えばJR全面バックアップのような印象を受けるが、当時の国鉄はどのように遇していたのだろうか。ヒマラヤ山系氏は休暇をとって随行しているので、阿房列車は私的な旅行のようだが、彼らは行く先々で鉄道関係者に温かく迎えられときには宴会をもったりする。良い時代だったこともあるかもしれないが、やはり内田百閒に不思議な魅力を感じていたのだろうか。

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2017/06/19

読み鉄・第三阿房列車

 内田百閒の文章を読んでいると、ときどき簡単なひらがな表記の中にもあれっと思う言葉がある。たとえばいま読んでいる第三阿房列車のなかに、「あれ程いやちこの通力だと思わなかった」とある。この「いやちこ」とは何だろうか。

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 広辞苑によれば「いやちこ」は、漢字では灼然となり”霊験のあらたかなこと、きわだっているさま”とある。出版社の若い社員が、新宿の飲み屋でたまたま山系氏に出会い、帰ろうとして外に出たら思いがけない雨が降った。雨男とだと聞いていたが、「あれ程いやちこの通力だと思わなかった」と感嘆したエピソードで使われている。

 また「早く早くとせき立てて、ちらくらしている内に」の「ちらくら」は、私が持っている広辞苑には載っていないが、なんとなくその状況をうまく表す音をもっている言葉だ。このように内田百閒の文章は、難しい漢字熟語だけでなく、ひらなが言葉にも一工夫あり、読めば読むほどその言葉選びの奥深さに感心してしまう。

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2017/06/10

読み鉄・第二阿房列車

 内田百閒「阿房列車」を読んでいると、ときどき見慣れない言葉が出てくる。以前は読み飛ばしていたが、今回は辞書で調べるようにしている。たとえば、いま読んでいる「第二阿房列車」の雷九州阿房列車のなかで、私が辞書を開いたのは、人物月旦(じんぶつげったん)、品隲(ひんしつ)、水珀(すいはく)、久闊(きゅうかつ)を叙する、などの言葉だ。

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 人物月旦は文章の前後関係から、人物評らしいと想像できる。調べてみると中国故事からきた言葉で、後漢のころ毎月一日に人物について批評したことによるそうだ。品隲、水珀、久闊は広辞苑に載っているが、品隲は品定めすること、水珀は水神、久闊を叙するは久しぶりに会って話をすることだ。いずれも難しい意味をもつものではないが、どこか品格を感じさせる言葉選びだ。

 内田百閒の文章は、言葉選びとともに言葉遊びも巧みだ。たとえば人名では、百閒に同行するヒマラヤ山系や旅立つ百閒を毎回駅で見送る夢袋さん、さらに旅先で出会った人を垂逸さん、何樫さんなどと記している。山系や夢袋が仮名であることはすぐに分かるが、垂逸、何樫とは珍しい名前だと思ってしまいそうだ。落ち着いて読めば、これは誰それ、何某という言葉を言い換えたものと分かるが、すんなり文章にはまっているのでこういう人名があるのかと百閒の言葉遊びについ乗せられそうになる。

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2017/05/28

読み鉄・第一阿房列車

 このごろ鉄道がマイブームになっている。乗り鉄でもなく撮り鉄でもなく、時間があるときに鉄道にまつわる本を読んでいる。選んだのは内田百閒の「阿房列車」シリーズ、第一阿房列車を読了し、いまは第二阿房列車を読み進めている。

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 「阿房列車」は、以前一気に読んだことがあるので再読となるが、今回の読書ペースは各駅停車なみにゆっくりしている。ちょっと時間ができたとき一話だけ読んで本を閉じる、こんなペースで進むのだ。わがままな年よりのように見えるが、じつは結構繊細でいろいろ気配りする様子を古風な文体でつづった文章が、じつにいい感じなのだ。

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